なんと壮大な光景でしょうか。
このディティールだけをみても、ここが我々の地球から非常に近いところにあるのがわかります。
その距離わずか1600光年。M78星雲は、オリオンアソシエーション(オリオン座近辺にある星や星雲のグループ名)に属し、それは、私たち太陽系が属しているのと同じ、銀河系の腕の中(オリオン腕)にあります。
この画像に写っている範囲(縦方向)で、なんと20光年。そんな巨大な空間の中で、星が次々に誕生しています。左下の暗黒星雲からは、今まさに生まれたての星が顔を出そうとしていますね。もしかしたら原始惑星系円盤から吹き上がるジェットが見えるかもしれません。
暗黒星雲は、水素ガスを主成分にしていますが、その他にも、ヘリウム、ケイ素、炭素や、鉄を含んでいます。
最新の観測によれば、タンパク質分子も存在するそうです。
水素やヘリウムは、宇宙が誕生した時から存在している元素ですが、それ以外のものはすべて恒星の内部で、星が核融合反応で光ることによって出来た副産物です。恒星の内部で出来たそれらの物質は、星の死によって、宇宙空間にまき散らされます。
星の死の形態には二種類ありますが、惑星状星雲となって最後を迎える星は白色矮星となり、作った重元素をそこにとどめてしまいます。もう一つの死の形態、最後に超新星爆発を起こす星のみが、これらの物質を宇宙にとき放ちます。
つまり、この暗黒星雲に含まれる塵などの重元素は、必ず超新星爆発を経た物質であるということが出来ます。
超新星爆発は、ひとつの銀河において平均すると30〜100年に一度出現します。
天の川銀河の年齢を仮に130億歳とし、出現頻度を100年とすると、1億3千万個の星が重元素を銀河にまき散らしたことになります。
さて、暗黒星雲の中の水素は、核融合反応の燃料となって星を光らせますが、そこに含まれているその重元素はどうなるのでしょうか?
実はそれらが、惑星を作りだす主材料になるのです。
特に、地球のような岩石の惑星の原料となるのは、この暗黒星雲に含まれる物質です。
自分たちとは関係ないと思っていた暗黒星雲がとても身近に感じられてきますね。しかしそればかりではありません。先ほども書いたように、暗黒星雲の物資の中には、タンパク質分子があるという最新の研究成果があります。つまり、私たちの体を作っている材料の故郷は、暗黒星雲であったかもしれないわけです。
宇宙は遠いところにあるのではなく、私たち自身が、宇宙そのものなんですね。
明るい部分だけなら割と簡単に処理できたのですが、今回は、その周りの暗い部分を何処まで出すことが出来るかに注力しました。ノイズを無視すれば、もっと暗い部分まで出せますが、Webバージョンではこの程度が限界かなと思います。「暗い部分は色差で表現した方がよいだろう」という経験則で、今回はRGB共に20分露出しました。そのおかげでかなり暗い部分まで色が載ってきています。本当に正しい色かどうかちょっと心配なのですが、いつもの処理フローを行うとこうなりました。RGBの間でわずかの差が色となって現れるので、いかにフラットきちんと撮れているか、ノイズレベルをきちんと押さえられるかとの戦いでした。全体的に上部は青っぽくなっていて、下部は赤くなっていますが、これは実際にこうなっているのだと思います(思いたいです(笑))。
2フレームモザイク作品です。
それぞれのフレームA1、A2に対して、明部用(l_forBright)と暗部用(L_forDark)の輝度素材とカラー画像(RGB)を用意。暗部用は解像度を犠牲にしてSNを改善させ、明部用は暗部は出さずに解像度優先で処理しました。合成時に同じ調子になるように、 DDPや、マルチバンドシャープのパラメータ、TIFFに変換するときのレンジ、これらを各フレームですべて同じにしました。全体像は下のフロー図をご覧ください。
そして今回はノイズに対してシビアなので、Neat Imageを使いました。最近、使わないようにしていたのですが、こういう対象には、やはり頼りになります。合成はCS3のフォトマージを使っています。自動処理ではうまくいかない場合が多いですが、手動で大体合わせてあげれば、後は自動スナップしてくれるので大変便利です。合成マスクも最適なものを作ってくれますので手間いらずです。
すべての条件を同じにして処理しましたが、A1、A2フレーム間で微妙に色味が違ってしまいました。
このフレーム間で、色を補正して合わせる良い方法が思いつきません。部分的にエリアを選択し、同じRGB比になるように調整しても、なぜか見た目では合わなかったりします。最後は結局、自分の眼で(感で)、調整することにしました。
最後は、モザイク合成した後の輝度の調節。今回のような暗い領域を持つ対象は、トーンカーブのさじ加減ひとつで、作品のイメージが大きく変化します。大切にしなければならない工程です。みなさんのモニターでどのように見えているかが心配です。
暗黒星雲を透かしてみているせいか、赤いハローが星の回りに現れます。次の課題は、暗黒星雲に絡む星像を、キレイに表現することですね。
上の画像を見ていただければわかるように、実は複数の星雲の集合体です。
M78は、日本ではウルトラマンの故郷として有名ですね。本当はM87(注)だったのだが、脚本の印刷時に間違えていたというのは有名な話です。M78の暗黒星雲を挟んで右下にあるのが、NGC2067。左下の部分がNGC2064です。これらの実体はM78と言ってもいいですね。一つながりのものといっても良いと思います。
右にあるのが、NGC2071です。
(注) M87は、乙女座銀河団の中心に居座る巨大な楕円銀河です。
M78
NGC2071
NGC2067
NGC2064