バラ星雲の名称で有名な、巨大な分子雲。
その中心で生まれた青い星々(NGC2244)からの恒星風は、周囲のガスを吹き飛ばし、空洞を押し広げつつあります。
周囲のガスは、水素を主成分とするものであり、恒星からの紫外線で励起し、赤く光っています。しかし同時に、青い光りを受け、乱反射を起こしています。それらの混合によって起こる複雑な色調。赤と青い光りの織りなす微妙な変化が、その立体構造を浮き上がらせています。
ガスの形状をよく見ると、「疎」な部分と、「密」な部分があります。
「密」な部分は、恒星風で強く圧縮されているところ。つまり誕生した恒星からの距離が近いと想像出来ます。逆に「疎」の部分は、遠距離にあるはず。中心部の恒星のバックにあるガスなどは、遠方にあるものと思われます。そういう意識で見直してみると立体感が感じられ、巨大なトンネルの様にも見えてきますね。
画像下部には、沢山の星の卵、グロビュールが見えています。
既に生まれた新しい星の恒星風を受けて、分子雲が吹き飛ばされた結果、このような形状が生まれると言われていますが、下のアップの画像をご覧ください。私にはどうもそのようには見えません。
もし、恒星風によるものならば、分子雲の形状はもっと直線的になるはずです。なぜ、このような形状になるのでしょうか? これは、まさに水の中に混じった油が、水面に向かって上昇するときの形状です。自然はスケールを変えて同じパターンを繰り返すのだとしたら、まさにそれと同じ現象が、物質とスケールを変えて起きているのでしょうか?
もうひとつ、不思議な領域。
この画像は、全体画像上部のアップですが、非常に特徴的なガスのうねりがあります。
他の部分に比べて特異的な点は、ブルーグリーンの輝線で光っているようなガスが見えることです。この色はヘリウムや酸素の存在を暗示させます。しかし生まれたばかりの分子雲の中に、ヘリウムや酸素がこんな形で存在するとは思えません。
形状は、NGC6992(網状星雲)に似ていますね。
もしかしたら、これは、バラ星雲よりもずっと遠くにあるのかもしれません。
ブルーグリーンの色がはっきりと出ていないのは、手前の赤い輝線星雲の色が混じっているためかも?
見れば見るほど、超新星爆発の残骸の様に見えてきます。
超新星爆発で出来たガスには、特徴的なフィラメント形状が存在しますが、非常に遠いために、分離出来ていないだけだとしたら...、想像はふくらみます。
しかし、どのカタログを調べても、このガスの固まりには固有の名前がついていません。この推測は大きな勘違いなのかもしれません。
今回のこの作品は、簡潔に、スッキリと無理なく出来上がりました。
完成画像を見ていただくとわかりますが、どこにも無理がありません。全面明るい星雲なので、無理して暗部を出していません。シャープネスの処理もほどほどにしか施していませんが、これはなにより、撮影時のシーイングが良かったおかげです。一番良いフレームでは、FWHMが1.7程度出ていました。輝星の輝度感も素直で、かなり僕の理想の画像に近い出来です。といっても、良画像の選択は重要です。悪い状態の画像を使うと、それを取り返すのに多大な画像処理の苦労が伴います。下準備の段階がとても重要です。どうしても先を急ぎたくなりますが、下準備にこそ一番時間をかけるべきと考えます。今回の処理時間は、「下準備80% + 仕上げ処理20%」でした。
この解像度感のままモザイク撮影で、バラ星雲全体まで視野を広げたいところですが、ガイド星の都合で、そうもいきません。ガイド星を気にすることなく、フレーミング出来るシステムの構築が望まれます。